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雑病記聞

労咳
労咳は、本名労瘵と雲ひ、唯瘵( ○) とも雲ひ、或は虚労とも雲ひ、 鬱症( ○○) とも雲ふ、労咳とは、俗に雲ひ習はし来る名也、是労とは、此病段々労れて出る病なる故に労と雲ふ、又咳とは、此病となれば、必咳嗽出る故に、咳と雲ふなり、瘵とは、此病にかヽれば、必死して祭らるヽと雲ふ意なり、此病雑病中第一の大病にて、和漢古今医者の治し難しとする所なり、就中此病は、老人愚人下賤の人等には希にて、年若き人、富貴の人、才力智ある人に多し、国に代へ家に代へ数百人の命に代へても救ひたきと雲人昔よりおほく、天下の父母おして歎かしむる第一の病なり、余此に理お明めんことお志し、数年の間これお思ひ、これお思ふて、才に其道理お得たるに似たり、然れども其理お解する程、猶更に治すべきの薬に乏きお憂ること故に、別して其の病理お詳に物語りて、後世是お治すべきの方術あらんことお希而已、 労瘵に七種の別( ○○○○○○○) あり、先これお知るべし、七種とは、一には伝尸、二つに遺毒労、三つに伝染労、四つに蓐労、五つに風労、六つに鬱労、七つに腎虚労也、其中に伝尸労、遺毒労の二労は其脈症見るれば軽しと雲へども必死なり、伝染労は遠く避けて免るべし、蓐労、風労、鬱労、腎虚労、其の脈症見るれども、軽ければ治すべし、重ければ不治也、