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塵塚談

養生所へ甲戌〈○文化十一年〉十一月十日来病人之事
本郷春木町三丁目嘉右衛門店
安五郎〈戌四十一歳〉
右之者、戌七月便毒お煩ひ、平愈の後に陰毛中へ、大豆程なる腫物出来、膏薬にて早速に愈たり、其後、 骨痛( ○○) お発し、養生所へ願出、逗留罷在の所、十一月十五日、湯風呂屋の縁側にて、尻餅おつよくつきけるが、いさヽかのさはりもなく、入湯いたし、部屋へ帰りふせりけり、其夜小便に起立しに、頭骨がた〳〵から〳〵みし〳〵とつよき音いたし、痛つよく眩暈し、それより起臥出来かね、おきあがると、頭がまへにたれ下るにより、頬杖お両手にてつき、頭お抱へ起坐す、食事の時は横にふし、左お下にし喰なり、頭骨三つの内、中の節くじけし様に覚ゆるよしお申聞る、十二月中旬に至り、痛心よく両便常の如く、食事よく気力もよし、頭の前へたれ下るの病ひのみになれり、医経に、大椎骨の上の三節お頭骨とし、大椎より下お背骨とす、顕然たる理なり、此病人全く頭骨の離れしもの也、