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栄花物語
七鳥辺野
弾正宮〈○冷泉皇子為尊親王〉うちはへ御よありきのおそろしさお、よの人やすからずあひなき事なりと、さかしらに聞えさせつるに、ことしはおほかたいとさはがしう、いつぞやのこヽちして、みちおほぢのいみじきものどもおほかり、かヽるものどもおみすぐしつヽ、あさましかりつる御よありきのしるしにや、いみじうわづらはせ給てうせ給ぬ、このほどは新中納言、いづみ式部などにおぼしつきて、あさましきまでおはしましつる御心ばへお、世のうきものにおぼしつれど、うへ〈〇九君〉はあはれに覚しなげきて、四十九日の程にあまに成給ひぬ、〈○中略〉かくて弾正宮うせさせ給ぬと雲事、冷泉院ほのきこしめして、世にうせじ、ようもとめばありなむものおとぞの給はせける、あはれなるおやの御有様になん、