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瘍科秘録

疥癬〈内攻腫〉
疥癬は世にひぜんかさと称し、原は肥前の国より起たるものゆえ名くるなり、其因湿気お受て発すると雲ふ説にて、今は通じて 湿瘡( ○○) と呼ぶなり、其毒伝染し易して、一人患ふれば挙家尽患ふるに至る、其瘡瑣屑なるものは、濃少く痒み多くして治し難く、肥大なるものは膿多く痛み甚しくして治し難しとせず、 傅薬浴薬( つけくすりやくたう) などにて一旦治すれども病根尽き難く、春秋には必ず再発して生涯愈ざるもの多し、格別の大病と雲ふには非ざれども、小児は羸痩骨立して面色萎黄になり、疳お併病するものなり、又毒凝滞して総身に幾つも癰癤お発し、濃血淋醨として流れ、遂に疲労して死するもあり、大人も多く発するときは四肢不自由になり、看病人の入ることあり、一種頑癬の如くに発し、紫黒色になる者あり、是は毒の猶深きなり、刺して血お去るべし、此病の恐るべきは 内攻( ○○) なり、内攻するときは、急に衝心して死すること脚気の衝心と同じ、