[p.1264]
宇治拾遺物語

いまはむかし、天竺に留志長者とて、世にたのもしき長者ありける、〈○中略〉心のくちおしくて、妻子にもまして従者にも物くはせきすることなし〈○中略〉人はなれたる山の中の木のかげに、鳥獣もなき所にてひとり食いたり、〈○中略〉帝尺きと御覧じてけり、にくしとおぼしけるにや、留志長者が形に化し給て、我家におはしまして、〈○中略〉たから物どもおとり出してくばりとらせければ、みなみなよろこびてわけとりける程にぞ、まことの長者はかへりたる、〈○中略〉あれは変化の物ぞ、われこそよといへどもきヽ入るヽ人なし、〈○中略〉こしのほどに はヽくそ( ○○○○) といふものヽあとぞさぶらひし、それおしるしに御覧ぜよといふにあけてみれば、〈○下略〉