[p.1264][p.1265]
源平盛衰記

一行流罪事
一行は玄宗皇帝の御加持の僧にて御座しが、而も天下第一の相人に御座ける、皇帝と楊貴妃と、連理の御情深して、万機の政務も廃給程也けり、一行帝后二人の御中お相するに、后には 御臍の下に黒子あり( ○○○○○○○○○) 、野辺にして死し給相也、帝には御うしろに紫の黒子あり、思に死する御相也と申けり、皇帝此事お聞召て、大方の相は正しく見る共、争か膚おば知べき、通道のあればこそ、臍の下の黒子おば知らめとて、可流罪之由被仰下ける程に、公卿僉議有て、一行は朝家の国師、仏法の先達也、就中相に於ては天下第一也、音お聞て五体お知、面お見て心中お相するに、敢て違事なし、いかヾ可被流罪と申ければ、且くさし置給たりけるに、〈○下略〉