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太平記

備後三郎高徳事並呉越軍事
呉王夫差俄に 石淋( ○○) と雲ふ病お受て、身心鎮に悩乱し、巫覡祈れ共無験、医師治すれ共不痊、露命已に危く見へ給ひける、他国より名医来て申けるは、御病実に雖重、医師の術及まじきに非、石淋の味お嘗て、五味の様お知する人あらば、輒可奉療治とぞ申ける、さらば誰か此石淋お嘗て、其味おしらすべきと問に、左右近臣相顧て、是お嘗る人更になし、勾践是お伝聞て、涙お押て宣く、我会稽の囲に逢し時、已に被罰べかりしお、命助置て、天下の赦お待事、偏に君王慈恵の厚恩也、我今是お以て不報其恩、何日おか期せんとて、潜に石淋お取て是お嘗て、其味お医師に被知、医師味お聞て加療治、呉王の病忽に平愈してけり、