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方丈記
又養和のころかとよ、ひさしくなりてたしかにもおぼえず、二年があひだ、世の中飢渇して、あさましきこと侍りき、〈○中略〉明くる年は、たらなほるべきかと思ふ程に、あまつさへ えやみ( ○○○) うちそひて、まさるやうに跡方なし、世の人皆うえ死にければ、日お経つ、窮りゆくさま、少水の魚のたとへに協へり、終にはかさうちき、足ひきつ、み、身よろしき姿したるもの、ひたすら家ごとに乞ひありく、かくわびしれたるものども、ありくかと見れば、則倒れ伏しぬ、ついひぢのつら、路の頭にうえ死ねる類は数も知らず、取り捨るわざもなければ、くさき香、世界にみち〳〵て、変りゆくかたちありさま、目もあてられぬこと多かり、いはんや河原などには、馬車のゆきちがふ道だにもなし、