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春日験記

禅南院範雅僧都が養父大舎人入道といふものは、そのころ人にしられたる侍也、あるとし天下に 疫病( ○○) はやりて、家ごとにやみけるに、この入道が郎等男、ゆめに数多の武士この家にうちいらんとするに、先陣のともがら、うちおみいれて、かぶとおぬぎて拝していはく、此所には唯識論おはします、狼藉あるべからずとて、やがてみな退出しぬ、夢さめて後翌朝に、入道が家にきたりて此よしおかたる、そも〳〵唯識論とはなに物ぞやといふ、範雅おりふし在京して、かの家に同宿したりければ、このよしおつたへきヽて、くはしくその家おみるに、まろう人井の棚のおくより唯識論第九巻おもとめいだしてけり、此僧者都つねに宿しければ、同朋どもなど取落けるにぞと、