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天保集成糸綸録
百六
天保八丙年四月
大目付〈江〉
時疫流行候節、此薬お用て其煩おのがるべし、
一時役には大つぶなる黒大豆およくいりて、壱合甘草壱匁水に而せんじ出し、時々呑てよし、右医渥に出る、
一時疫には茗荷の根と葉おつきくだき、汁おとり多呑てよし、右肘後備急方に出る、
一時疫には午房おつきくだき、汁おしぼり、茶碗半分宛二度飲て、其上桑の葉お一握ほど火にてよくあぶり、きいろになりたる時、茶碗に水四盃入二盃にせんじて、一度飲て汗おかきてよし、若し桑の葉なくば枝に而もよし、右孫壱人食忌に出る、
一時疫に而熱殊之外つよく、きちがいのごとくさわぎてくるしむには、芭蕉の根おつきくだき、汁おしぼりて飲てよし、右肘後備急方に出る、
一切の食物毒にあたり、又いろ〳〵の草木、きのこ、魚、鳥、獣など喰煩に用ひて其死おのがるべし、
一一切の食物の毒にあたりくるしむには、いりたる塩おなめ、又はぬるき湯にかきたて飲てよし、
但草木の葉お喰て毒にあたりたるには、いよ〳〵よし、右農政全書に出る、
一一切の食物の毒に当りてくるしく、腹脹痛には、苦参お水にて能せんじ、飲食お吐出してよし、右同断、
一一切の食物にあたりくるしむに、大麦の粉おこふばしくいりて、さゆに而度々飲てよし、右本草綱目に出る、
一一切の食物にあてられて、口鼻より血出てもだへくるしむには、ねぎおきざみて、壱合水にてよくせんじ、ひやしおきて幾度も飲べし、血出やむまで用てよし、右衛生易簡に出る、
一一切の食物の毒にあたり煩に、大つぶなる黒大豆お水にてせんじ、幾度も用ひてよし、魚にあたりたるにはいよ〳〵よし、
一一切の食物毒にあたり煩に、赤小豆の黒焼お粉にして、はまぐりかひに一つ程づヽ水にて用ゆべし、獣の毒にあたりたるにはいよ〳〵よし、右千金方に出る、
一菌お喰あてられたるに、忍冬の茎葉とも生にてかみ、汁おのみてよし、右夷堅志に出る、
右之薬方、凶年之節、辺土之者、雑食の毒にあたり、又凶年之後、必疫病流行の事あり、其為に簡便方お撰むべき旨依被仰付、諸書之内より致吟味出也、
享保十八辛丑年十二月 望月三英
丹羽正伯
右は享保十八辛丑年、飢饉之後、時疫流行いたし候処、町奉行所〈江〉板行被仰付、御料所村々〈江〉も被下候写、
右は当時諸国村々疫病流行いたし、又は軽きものども、雑食之毒に当り、相煩難儀いたし候趣相聞候、天明四辰年御薬法為御救相触候処、年久敷事故、村々に而致遺失候儀も可有之候に付、此度為御救、右之写、猶又村々〈江〉領主地頭より可被相触候、
右之通可被相触候
四月