半日閑話

三

御尋に付清次書上之写
本八丁堀弐丁目半兵衛店清次申上候、私義奇怪之義申触 疫病除之札( ○○○○○) 差出候趣相聞、被召出一御尋御座候、私義は釣船渡世仕、相雇候者無之節は自分釣に罷出申候、当五月廿四日にも相雇候者無之候付、朝六つ時分より私壱人にて品川沖下夕之瀬と申所〈江〉船乗候に、きす百程も釣候二付、同日夕八つ時分、兼々肴責遣候南小田原丁肴屋鉄蔵方へ遣可申と存、築地本郷丁之前海波除内〈江〉船お留置、船掃除お致罷在候所、何方より参候哉、見事之きすに候間、呉候様申もの有之候故、振向見候へば、面体は不見留、丈六尺余、髪髭逆立栗梅のとろとんの様にて、唐人の様成衣類お著し、船の中程に立罷在候に付、無症之様に相成きす一つ差出候処、請取給候上、怪敷体に而、私名前相尋候に付、清次と申候旨相答へ候得ば、自分は疫神に有之、我正直成もの故、家内并親類に而釣舟清次と私名前書記置候ば、其家〈江〉は参間敷旨申候に付、辱旨申候と覚、右之者何方〈江〉か参、正気付、怪敷候に付、品々南本郷丁河岸〈江〉船お漕付、相残る肴は右鉄蔵方〈江〉売遣、船乗戻り、奇怪之義に付、右之趣妻子并同店之者〈江〉相咄候庭、同店藤八妻つなと申者疫病相煩候に付、私名前認呉候様申聞候得共、無筆に而其儀は難致旨申候得ば、同店之者釣舟清次と認め遣候に付、其通認遣候所、つなも快気仕候故、右之義お同店并近所之者及承、認呉候様相頼候に付、無れ拠認遣候得共、聊も礼物等請取候義は無御座候、猶私日々渡世に罷出候に付、所々より認貰に参候而は、渡世の邪魔に相成候事故、当時は頼来候而も相断認遣し不申候、御尋に付奉申上候、
完政二年戌六月廿二日 本八丁堀弐丁目半兵衛店
清次
河内守様
御番所
疫神といひしやつ、ほどすぎての風説に、大盗人にて、水中お潜る事魚のごとく、家根など飛こと鳥のごとく、同三年被召捕、段々のよし雲伝ふ、