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今昔物語
十二
神名叡実持経者語第卅五
或る時には心お至して経お誦するに、一部お誦畢る時に、倣に白象来て聖人の前に見ゆ、経お読む音甚だ貴し、聞く人皆涙お流す、如此く年来行ひて後には神明に移り住ぬ、而る間閑院の太政大臣と申す人御けり、名おば公季と申す、九条殿〈○師輔〉の十二郎の御子也、母は延喜の天皇の御子に御す、其の人其の時に若くして三位の中将と聞えけるに、其比 瘧病( ○○) と雲ふ事お重く悩み給ひ雲、もろこしにても、奴婢病と雲、いやしき病なれば、大人は煩はぬ意也続博物志に見えたり、又瘧お愈す薬お截薬といへるは、邪気と正気と出逢ふ道お立切ると雲意なるべし、