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痘瘡水鏡録
第一階
初日二日三日、是お序熱と雲、俗に雲ほとほり、凡痘瘡の患にか、ヽる小児多くは、先 腹痛( はらいたみ) 、 驚搐( びくつきち) 、 吐乳( ちあまし) 、 乾嘔( からえつき) 、下利 はらくだり 等種々の事有り、初めは風お引たるに似、熱強きは甚傷寒に類して、別難きもの也、是お知るには、腹痛むか否お問べし、 微( すこし) 腹痛有あものは極めて痘の目当なり、〈○中略〉
第二階
四日五日、此時お 見点( けんてん) と雲、俗にものばな見ゆると雲、痘序熱三日すみて、四日の朝、其大熱さめて、諸症こと〴〵く去り、能食して 口角( くちのわき) 、 天庭( ひたい) 、 福堂( まゆのはつれ) の辺に大小等しからず、紅活珠顆の如く、五七粒、或は二十粒三十粒見へて、数へつべきもの、は大々吉也、〈○中略〉
第三階
五日六日、此時お 出斉( しゆつせい) と雲、俗に出そろいと雲、凡痘は先面部より出始り、後に手足腹背に及ぶ、足の裏に出終らば、出斉と知るべし、総じて出斉も 起脹( きちやう) も 灌濃( くわんのう) も落痂も皆面部より始り、手足は一日も二日も遅きものなり、〈○中略〉
第四階
六日七日、此時お起脹と雲、俗二雲 山あげ( ○○○) 也、痘日々成長して、豌豆の如く、面部手足ともに 地腫( ぢはれ) 強く、常の顔に一倍し、食ます〳〵進み、微熱気お帯びて、六七分以上は眼 腫塞( はれふさが) り、元気なわやかなる者は大吉也、六七日目より黄茋汁に転ずべし、〈○中略〉
第五階
七日八日、此時お 行漿( こうしやう) と雲、俗に水もりと雲、痘起脹さへ十分なれば、漿の 行( めく) ることも手間いらぬものなり、其儘黄茋汁用ひ居るべし、〈○中略〉
第六階
九日十日、此時お 灌濃( くわんのう) と雲、俗に 膿( うみ) もりと雲、痘に 行( めく) りたる 漿( みづ) 漸々に色変り、始めは白く、後には青黄色に成り、頭円く根紅に、食益進み、声清く、大便秘し、眼開かざる者大吉也、黄茋汁にて内お張り居ることよし、漫りにゆるむべからず、大切の場なり、〈○中略〉
第七階
十一日十二日、此時お収靨と雲、又結痂とも雲、俗にかせると雲、痘に 皺( しわ) より、見へきたなくなり、膿先づかヽりたる所より追々に結痂におもむく者順也〈○中略〉
第八階
十三日十四日、此時お落痂と雲、俗にふた作ると雲、痘の皮黒赤く、 赤小豆( あづき) の如くにして、堅く厚く成り、段々二落ち、眼始て開き、熱気とんと去り尽し、大小便常の如く、食益進む毛の大吉なつ、〈○中略〉
第九階
十五日にて、痘のことは終るなつ、格別軽き症はざつと風炉に入るべし、大に元気よくなるものぞ、少し重きは十八日目、天気晴朗なるお見て風炉に入るべし、浴後甚風気らお恐る、慎むべし、表裏ともいまだ実せざる時なれば、大二風ひき易し、〈○下略〉