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疱瘡心得草
見点三日間の吉凶の心得之事
見点のみへそめには、表裏の虚実お考へ、うかするてだて、かんじんなり、痘人の性として、風寒にて表おとづるもの有、裏の気のよわきもの有、此外に毒気おすかして発するも有、是等詳に、弁べく、よき医師お頼み、家内の介抱如在なく心得る事肝要なり、吉症と雲とも、出浮くまでは大切也、風としたる物にさはられて、至て軽き疱瘡にても、出浮かずして変にあひ、又は折角出浮かけて引込もあり、かせ口より出浮がたきお大事とすべし、痘の始終は、全く発熱の時に弁へしるべし、見点頭面より見へ、手足ともにばらりと出て、その色上へ白く根あかくして瘡に光り有て、手にて探れば、さわる度に熱さつはりと覚め、食事すヽみ、大便小便常の如きは吉痘なり、頭面にあまた出るといへども、粒わかれて、肌の地あざやかなれば気遣ひなし、もしは蚕の種のごとくなるもの、もしは其色白け、肌の色と同じ、やけどの様なるもの、出るかと思へば隠れ、かくるヽかと思へば顕るヽもの、発熱一二日にして見点し、又は熱なくして見へて、熱出るものは、至て大切なり、始額よりみゆるお吉とす、頤咽の下より見ゆるは必ず出物多し、両の頬の痘粒分れて出るは吉症なり、いづれ両の頬はべつたりとして粒たち分れがたきものなり、両の頬さへたち出れば、跡より多く出ぬものなり、総じてよひ疱瘡は、むね、腹にはなきものなり、又頭面に見へずして、手足或は腰尻のあたりより見ゆるものは、逆にしてよろしからず、又此時皮ひとへ内にありて出で浮かざるものは、甚だ六け敷、是非に狂懆てむしやうになくものなり、介抱の人、随分と心お附べし、見点三日お出そろひとす、足に出るお雲ふ、軽きは足のうらになくても、三日になれば出揃とすべし、疱瘡の三関にて、先二度の関所有て、出浮揃ふお上の関と雲、膿水持てかせかヽるお後の関といふ、出でうきかぬるは五日六日の上の関お越へがたし、後の関は十日十一日にあり、作去生れ子の一年にみたぬは、十五日の期お待ずして早くかせるゆへ、其痘の重きものは、八日九日お三四才の十日十一日にあてヽ見るべし、俗に始終お十二日と心得て、神送りするは、疱瘡の吉凶お定むべし、吉痘は是より薬用ゆべからず、又軽といへども余病お狭むものは、其儘になし置べからず、良医の指図お持べきなり、