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梅園日記

疱瘡忌貝
本朝医談二編に、類聚符宣抄の、天平九年の太政官符お引て、廿日已後、若欲喫魚宍、先能煎炙、然後可食、但乾鰒堅魚等之類、煎否皆良雲々、本文に乾鰒の事あり、世疱瘡に貝類お忌とて、のしあはびお用ひざるは妄なり、痘毒目に入たるに、のしお黒焼にしてさす事、医療羅合に見えたりとあり、慎言雲、のしあはびお忌のみならず、すべての貝つ物お、家の内へいれだにせぬ程にいめり、按ずるに、痘疹伝心録の諸薬性、口訣に、淡菜、味甘鹹、気微寒、和肺気益腎気、 蛤蜊肉、性冷、煮食潤五臓、止消渇、開胃殊功、 牡蠣、味鹹塞、入腎経、消煩満、化痰凝、固精止汗、 石決明、鹹平、入肝経、消障翳、点赤膜、また、外消散、治陰嚢腫亮、大黄、牡蠣〈各五銭〉梢硝、〈二銭〉右為末、取田螺洗浄、以水活過一夜、取水調前末、塗腫処即愈、とあるお見ても、貝つ物いまぬお知べし、考ふるに、是は蘇沈良方の、治痘瘡無瘢の条に、瘡家〈按に、和板伊良子氏千之堂本、及び鮑氏知不足斎本倶に瘡痂に作れり、今程氏六醴斎本に従へり〉、不可食鶏鴨卵、食即時盲瞳子如卵色、其鷹如神、不可不戒也、幻々新書の、瘡疹愛護面目門に、熟雞鴨等卵、未有不損目者、雖瘡愈、宜数月不食、 痘疹伝心録に、或資食諸卵害目など見えて、くひて目しひとなるは、雞鴨等の卵なり、卵おふるくはかひこといへり、〈日本紀、万葉集、遊仙窟、和名抄、類聚名義抄、字鏡集、平他字類抄、倭玉篇の卵、又日本霊異記の殻、玉造小町壮衰書の〓、類聚名義抄の鷇、伊呂波字類抄、倭玉篇の〓お皆かひことよめり〉、さるお中昔より、かひともいひしかば、後には貝とあやまりたるにや、卵おかひといひしは、忠見集に、すもりこも出にけるかと見る時はかひなき身さへうらやまれける、又能宣朝臣集に、物申につれなくのみ見ゆる女に、鳥の子おいつヽやるとてすにすめるみおわびつ、も鳥の子おいつかひ有と物おおもはむ、此外、後撰集、拾偵集、輔親卿集蜻蛉日記、空穂物語、大和物語、古今六帖、源氏物語、保憲女集、金葉集、草根集等にあり、竹取物語のつばくらめのこやすがひも、燕卵なりと、河海に史記お引ていへり、近き頃のものには、禰津松鴎軒が鷹記、貞徳が油糟等に見えたり、