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栄花物語
二十五みれの月
かくいふほどに、ことし〈○万寿二年〉は あかもがさ( ○○○○○) といふものいできて、上中下わかず、やみのヽしるに、はじめのたびやまぬ人の、このたびやむなりけり、内〈○後一条〉東宮〈○後朱雀〉も中ぐう〈○威子〉も、かんのとの〈○嬉子〉など、みなやませ給ふべき御としどもにておはしませば、いとおそろしう、いかに〳〵とおぼしめさる、〈○中略〉よろづよりもかんのとの、このあかもがさいでさせ給て、いとくるしうおぼしめしたりとて、との〈○道長〉にはのヽしりたちて、いみくおぼしあはてさせ給、〈○中略〉東宮〈○後朱雀〉うちには、たヾけしきばかりにておこたらせ給てけり、このかんのとのは、この月などにこそはさおはしますべきに、いと〳〵おそろしき御ことなりとなげかせ給に、御もがさいとおほくいでさせ給て、たいらかにおはしませど、日ごろくるしうおぼされて、いとたへがたげなる御けしきになりつれど、つごもりにはおこたらせ給ぬれば、よにうれしきことにおぼしよろこびたり、されどまだほどもなければ、御ゆなどもなし、〈○中略〉中なごんどの〈○長家〉のきたのかた〈○斉信女〉も月ごろだにもおはせざりければ、おりあしきかさおいかに〳〵と、大なごんどの〈○斉信〉もおぼしなげき、中なごんもいかにとおぼしつるに、月ごろいみじうほそりやせ、ありし人にもあらめ御ありさまおぞ、いかにおそろしくて、さま〴〵の御いのりおしつくさせ給める、かんのとのヽ御かさかれさせ給つれど、御ものヽけのけしきのいとおそろしくて、まだ御ゆもなし、