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時還読我書

癸亥〈○享和三年〉の三月初旬、荻野台州より先君子へ書お贈ていへらく、朝鮮地方にて麻疹大に行れ、薬物お対州へ乞来るのよし、前月季伝聞せり、此事虚誕のやうにもきこへず、往年の流行は時も、朝鮮地方より対馬に至り、長門に伝へ、夫より東西一般になりしと承りしと、癸亥の麻疫は、都下は四月中まで病もの猶少かりしが、端午の日未牌より酉牌後に至るまで、白気一道ありて天お宣りしが、爾後俄に多く行れ、沿門皆病にいたる、丙申〈○安永五年〉の疫の前にもかかることありしと聞りと、錦城先生の話なり、