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続古事談
四神社仏寺
兵庫頭知定といふ陪従ありけり、産穢に入て廿余日おへて、八幡の御神楽に参勤てかへり、事なかりければ、又臨時祭に参たりけるに、舞殿にて 鼻血( ○○) あえたりければ、恐おなしてまかり出て思様、此産穢の外不浄の事なし、この祟りにやと疑ふ程に、知定がむすめの十歳ばかりなるが俄に気色かはりて、知定およびていふやう、我は八幡の御使也、女お誡めむとて来る也、いかで産婦と抱きねて、大菩薩の宝前へは参るぞ、仍御勘当ある也、早く御神楽おして勘当おゆるべし、女が歌久しくきかず、我愛するところ也、早くうたふべし、又蒜鹿さらにくふべからず、大菩薩にくみ給物也といふ、知定申様、産穢おばいく日ばかりいむべきぞや、女子雲く、三十日いむべし、われおとなにつくべけれども、一には疑あるべし、一にはけがらはし、おさなきものはうたがひなく、けがらはしからず、この故に託宣するなりとてさめにけり、知定人々かたらひて、八幡に参て御神楽おこなひけり、