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玉勝間

癩病おかたいといふこと
ある人のいはく、俗に癩病おかたいといふは、害大の字なり、癩病一名お害大風といふ、証治要決に見えたりといへり、すべて此たぐひの説は、うちきくには、うべ〳〵しく聞ゆれども、よく思へばみなあたらぬこと也、いかにといふに、すべて俗語は書お考へて雲出る物にはあらず、字音の言の多きも、おほくは仏ぶみの語にて、これむかしほうしの常にいふお聞なれたるより、うつれるものなり、仏語ならぬも近き書に多く見えて、聞なれたる言こそあれ、遠きからぶみに、いとまれに見えだる言などおば、世の人はいかにしてしりていひ出む、たま〳〵似たることお見つくれば、ゆくりなくそれより出たりと思ふは、ひがこと也、癩病人おかたいといふは、 乞児( かた井) より転れる言也、そはいとことなるがごとくなれど、人おいやしめにくみて、かたいといへることあれば、それより出たる也、すべて世の中の言は、意はさま〴〵にうつりきぬること多きぞかし、