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宇治拾遺物語

これもいまはむかし、智海法印有職のとき、清水寺へ百日まいりて、夜更て下向しけるに、はしの上に唯円教意、逆即是順、自余三教、逆順定故といふ文お誦する声あり、たうとき事かな、いかなる人の誦するならんと思ひて、ちかうよりてみれば白癩人なり、かたはらにいて法文の事お雲に、ちかひほと〳〵いひまはされけり、南北二京にこれほどの学生あらじ物おと思て、いづれの所に有てととひければ、此坂に候なりといひけり、後にたび〳〵尋けれど、たづねあはずしてやみにけり、もし化人にやありなんとおもひけり、