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増鏡
十あすか川
春宮〈○後宇多〉例にもおはしまさで日比ふれば、内のうへ〈○亀山〉御胸つぶれて、御修法やなにやとさはがぜ給、和気丹波の薬師ども〈氏成、はる成、〉よるひるさぶらひて、御薬の事、色々につかうまつれど、たゞおなじさまにのみおはす、いかなるべき御事にかといとあさましうて、上〈○亀山〉もつとこの御方にわたらせ給て、見たてまつらせ給に、御目の中おほかた御身の色なども、ことのほかに 黄にみえければ( ○○○○○○○) 、いとあやしうて、御虎子おめしよせて御らんぜらる、紙おひたして見せらるゝに、いみじうこく出たる黄皮の色なり、いとあさましく、などかばかりの事おしり聞えざらむとて、御けしきあしければ、薬師どもいたうかしこまり色おうしなふ、かばかりになりては、御灸なくては、まが〳〵しき御事いでくべしと、おの〳〵おどろきさはぐ、いまだ例なき事は、いかゞあるべきとさだめかねらる、位にてはたゞ一たびためしありけり、春宮にてはいまださる例なかりけれど、いかゞはせんとておぼしさだむ、七にならせたまへば、さらでだに心ぐるしき御ほどなるに、まめやかにいみじとおぼす、薬師と大夫〈定実〉の君ひとりめし入て、又人もまいらず、御門〈○亀山〉の御前にて、五所ぞせさせたてまつらせ給ける、御乳母どもいとかなしと思て、いぶかしうすれど、おさ〳〵ゆるさせ給はず、〈○後宇多〉いとあつくむづかしうおぼせど、大夫につといだかれ給て、上〈○亀山〉の御ておとらへ、よろづになぐさめ聞えさせ給ふ、御けしきのあはれにかたじけなさお、おさなき御心におぼししるにや、いとおとなしく念じ給ふ、