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牛山活套

邪( /○) 祟( すい/○)
本邦にては、多は狐狸犬猫の類、婦人女子に妨おなして邪祟となる、或は大病の後気血虚乏の時、邪気虚に乗じて入る也、病者虚羸し、邪気勝つ則死す、早く祈て邪お退くべし、筑紫の方には、 河佰( かはつぱ)の邪祟多し、金銀花の煎湯お用て有神効、或は髪切とて、婦人或は童男童女の髪お、あたヽかなる風吹来ると覚て、結節より髪おふつと落して、其跡 稠粘( ねばり) て鳥餅などお付たるやうに成て、卒時に絶死に至り、暫時ありて 蘇( よみかえ) り、寒熱往来し、傷寒に類する病あり、関東の 鎌鼬( かまいたち) と雲ふ悪風の類也、小柴胡湯に陳湯お合し、遠志石菖蒲辰砂お加て用れば有奇効、周防長門には犬神と雲邪祟、 土瓶( とうべう) と雲ふ邪祟あつて狐つきの如くに人に害おなす、此邪祟は甘松香お火に焼き鼻お薫ずれば、立処に其邪退く也、犬神と雲は、犬お殺して邪おこしらへたるお雲、唐土の蠱毒の類の如き者か、土瓶と雲は、小蛇お土瓶の中に畜へ置雲、此両種の邪祟は、甘松香にて薫ずれば、其邪立処に退く也と、周防国八代島の住医、青木道説と雲者啓益に語りき、啓益本草甘松香の条お考に、邪祟お避るの能あり、啓益狐付の者おも、此甘松香にて薫ずるに其効如神、啓益又青木道説に、邪祟に金銀花お用ることお伝ふ、青木氏国に帰て、犬神土瓶の邪祟に金銀花お用に其効如神と、書翰お通て互に謝礼せし也、邪祟の症と見きはめたるときは、狐つきにても、山〓のつきたるにても、猫またでも、甘松香お以て薫じ、金銀花の煎湯お用べし、扠又浮図巫覡に命じて祈禱すべし、世間の医師は、多は丹渓の虚病痰病邪祟に似たると雲の論お確守して、真の邪祟病お知ぬ類あり、故に此所に委く弁じ置也、