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塵塚談

天明二寅年九月十九日昼七時頃、藤沢駅領家町小糠屋平左衛門下女はつ、我等寓居座敷脇にて、 病犬( ○○) に左の手二の腕一握り程喰とらる、たばこ二三服呑む程過て灸治せんとするに、右疵の所さらに見へず、きれいに愈たり、隻喰取し廻りに針にて突しごとくに、あちこちに赤みあるのみ也、夫お見当に梅桃程の灸、炷凡一時飲り致す所、一向熱痛なし、灸治半より火しく水流れ出たり、右女は、いふ迄もなし、すへる者も退屈してねかす所、暫く過、悪寒強く瘧疾のごとし、其後毎日灸治三四十日なしけり、天明七未年迄は無別条存世せり、其のちの事はしらず、