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内科秘録

中酒
中酒は又傷酒とも雲ふ、酩酊お謂ふに非ず、宿醒のことにも非ず、又酒に中りて腹痛吐瀉等の証にも非ず、常に酔たると迥に殊なり、昏睡して人事お省せず、呼べども応ぜず、揺かせども醒めず、屈伸転側おもせず、飲食おもせず、総身の知覚お失し、木偶土塑の如くなり、医者は惟不省人事の処へのみ眼お著け、誤て卒中風と為し、或は癇証と為すことあり、捧腹絶倒すべきことなり、又精神錯乱になり、譫語妄言して親疎お弁ぜず、或は走り或は躍り、須臾も安静ならず、邪祟の如くに見ゆる者あり、皆翌日に至れば霍然として醒む、或は重き者も二三日お過ぐれば必ず解すものなり、