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東遊記

七不思議
一 鎌鼬( かまいたち) といふことあり、是は越後の国中に、いづれの所にも折節有る事也、老少男女の差別なく、面部又手足抔お、太刀にて切りたる如く、おのれと切るゝ事なり、疵の大小定らず、或は竪或は横にて、見事にきるゝなり、されど骨の切るゝことなし、又格別血の出るといふにもあらず、隻寒熱強く発し、時疫傷寒の如し、其時其地の伝来にて、古き暦お黒焼にし、さゆにて用るに、数日の間に平愈し、疵の跡も見えず、なほるといふ、此鎌鼬に出合ふ事、或は何方の堤、又はかしこの辻など、其所大抵は定りてあり、然れども何のわざといふことも知れず、此事、越後にも限らず、奥州、出羽、佐渡などにもありといへば、北地陰寒の瘴毒、人にあたるにやといふ、又或入の説には、鎌鼬にはあらず、かまへ太刀なり、此気のするどなる事、太刀お構へて切る如くなるゆえにいふと、是は僻説なりとぞ思はる、隻深き理屈もなく、むかしより言ひならはしたる名にてあるべし、広大和本草などには、此漢名お考へ出せり、さる事にや、