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閑田次筆

一種の風有て、俗にかまいたちといふは、かくのごとく甚しからねど、此筋にあたるものは刃おもて裂たるごとく疵つく、はやく治せざれば死にも及ぶとなん、これは上方にてはなきことなりと思ひしに、今子のとし、予〈○伴蒿渓〉が相識人の下婢、はつかの庭の間にてゆえなくうち倒れたり、さてさま〴〵に抱へたすけて、正気に復して後見れば、頬のわたり刀もて切たるごとく疵付しとなん、即これなるべし、又是につきてある人の話に、下総国大鹿村の弘教寺の小僧、この風にあたりて悩みしに、古暦お 霜( くろやき) にして付しかば、忽ち治したると也、暦お霜にして付るといふことは、予もかねて聞及びしが、これは現証なり、下総甲斐の辺にては、窻明り障子なども暦にて張る、かゝれば彼風いらずといへり、さて其わたりにては、風神太刀お持といふより、かまへだちと称ふとかや、かまいたちと称るは、此語おあやまれるにや、是は語に理あり、