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瘍科秘録

帯下( ○○)
帯下は素問に見ゆ、金匱にも出て、治法お載せたり、婦人良方雲、人有帯脈、横於腰間、如束帯之状、病生於此、故名為帯、と雲ふ説なれども、強解のやうに思ふなり、帯は滞の義にて、穢物淤滞して下る意なり、痢のことおも滞下と雲ふゆへ、水お去て混淆せぬやうにしたるものなるべし、後世に及て、赤白の二症お分つ、本邦にて、赤帯おながちと雲、白帯おしらちと雲ふ、至極の大病にて、先必死と定めらよき程の者なり、老媼のみ患へて壮婦に無し、多くは五六十歳にて発す、希に早く発する者も、四十歳以上なり、壮婦の帯下お患ふると雲ふは、多くは 月信( けいすい) の不調にて、真の帯下に非ず、老媼の月信一旦断て后、 悪露( くだりもの) 適下ること、月信の如く、自分も月信の誤て復来りたるものならんと、軽く心得て居るうちに、期日お過れども止まず、愈多く下り、少腹絞痛し、或崩漏して、一次に一升余も下り、或は雞肝の如き凝血お下し、血の濃ものは紫黒色、薄きものは桃花色にて鮮紅ならず、多く下りたる後は、下り物減少すれども、又腹痛して大に崩下すること前日の如く、幾度も漏下すること、数月お経れども止まず、遂に自穢物お下すに至る、続て自穢物のみ下るものもあれども、赤白雑下するもの多し、