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内科秘録
十三
小児鬾病
鬾病は病源候論に出づ、医灯続焰に 魃病( ○○) に作る、蓋し鬾魃通用す、又 継病( ○○) とも雲ふ、 おとみやみ( ○○○○○) とも、又 おとみづはり( ○○○○○○) とも雲ふ、常州の方言に ちばなれ( ○○○○) と雲ふ、鬾は小鬼のことにて、小児黄痩して小鬼の如くなりたる義なり、小児の未だ成長せずに、其母早く妊娠するときは、乳汁不足になり、小児常に飢て気六箇敷なり、忿恚諦泣するものお鬾病と名く、即ち俗に雲ふちばなれのゆとなり、軟飯、希粥、及び乳粉と称して、粢粳の合粉お煉りたる物にて介抱すれども、脾胃に、慣れぬものお卒に食するゆえ、脾胃お傷りて完穀下利になり、後には疳に変じ、飲食お貪り、常に過食して数下り、遂に身体黄痩し、腹のみ脹満して青絡お見し、至極大病になるものなり、医俗共に其病因お察せず、徒に虫と為して、強て薬お与へ、漫に灸お 炷( すえ) るは大なる心得違なり、此証は前にも雲ふ通り、脾胃の虚弱より起る病にて、是迄擂餌にて養ひたる小鳥お、卒に蒔餌にして脾胃お傷りたるに同じことなれば、薬餌鍼灸の治する所にあらず、先づ乳母お倩ひ、或は乳ある人家に託するお最第一の良策とす、然れども長じたる小児は人お認識りて、乳に就き兼るものなれども、其儘手お束ぬべからず、乳母昼は小児の左右に侍して倶に遊戯し、夜は寐添て小児の眠り際に乳お飲ましむるやうにするときは、自然と慣染ものなり、鬾病にて吐瀉久しく止まず、肉爍骨立して危篤に至りたる者お、此手段にて回春したること挙て算ふべからず、