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叢桂亭医事小言

小児
夫 小児には( ○○○○) 、 疳と雲病お常病とす( ○○○○○○○○○) 、是は甘お食て発する故に、疔に従て疳と雲は正字通の説也、本邦にては古より疳お忌て、児の初生には、必 かに小紋( ○○○○) と雲て、積雪草葉お染て産衣にするは、疳お除くの縁によること東門随筆に見えたり、 かに( ○○) と雲ことは、疳と雲こと也、〈○中略〉

小児の疳は、其形状尽しがたし、後漢の王符が潜夫論曰、嬰児有常病、貴臣有常禍、父母有常失、人君有常過、嬰児常病、傷於飽也、貴臣常禍、傷於寵也、哺乳多則生癇病、富貴盛而致、驕疾、愛子而賊之、驕臣而滅之者非也と、古より小児には、飽しむるお以て病お致す、癇は驚風の事お雲也、疳は甘お食して病むと雲とも、疳の字は古書に出たるは、皆疳虫蝕瘡の事にて、今の五疳のことにあらず、外台方に疳痢の方おのせたれども、今の疳痢の事にはあらで、 肛門に虫お生ずるのこと( ○○○○○○○○○○○) お論ぜり、又金匱に疳虫蝕歯の方あり、註家多く仲景の文に非ずと評す、猶又今の疳には非ず、病源候論に始て疳〓と称す、曰、人有嗜甘味多、而動腸胃間諸虫、致令侵食腑蔵、此猶是〓也、凡食五味之物、皆入於胃、其気随其腑蔵之味而帰之、脾与胃為表裏、倶象土、其味甘、而甘味柔潤於脾胃、脾胃潤則気緩、気緩則虫動、虫動則侵食成疳〓也、但虫因甘而動、故名之為疳也と雲もの、今の疳の病因お論たるに似て、古の疳〓お生ずる病お弁ず、正字通に、小児食甘物多生疳病、五疳の説且其病状お具論し、以葱椒煮蝦蟇食之大効と記すものは今の疳也、さて五疳と雲も、病源候論に出たり、曰五疳、一是白疳、二是赤疳、三是蟯疳、四是疳〓、五是黒疳とあり、村上氏の慈幼密旨と雲書に、ちりけに数種お出せり、其名ちりけ、ちりちりけ、紅ちりけ、黄ちりけ、波美ちりけ、其論疳おさすに非ず、胎毒お指す、又梶原性全の頓医抄に、塵気に作る、経穴彙解身柱の条に、諸お引て具論せり、見るべし、今の疳と雲もの、適当のことは、宋銭仲陽の小児直訣に、五蔵の疳お載て論たるもの詳也、古は疳とは唱へざることヽ見ゆるなり、素霊に疳の字なく、千金方にも疳の字なし、〈○中略〉食お進んで腹は大くて、外の処は痩る、 丁奚病( ○○○) と雲、気厥論に大腸移熱於胃、喜食而痩入〈按、衍字、甲乙作又、〉謂之食亦、胃移熱於胆、亦曰食亦、とあり、小児のことにはあらねども食亦と雲べしや、