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松屋筆記
九十二
くつめきの病
小児の咳病お俗に くつめき( ○○○○) といへり、宇治拾遺物語十巻〈十六丁左〉蔵人頓死語に、台盤に額おあてゝのどおくつ〳〵と〳〵つめくやうにならせば雲々とあり、痰咳にて、喉のくつ〳〵鳴病なれば、くつめきとはよべるなりけり、砂石集三上巻〈一丁右〉癲狂人之利口事条に、或里に、癲狂の病有る男ありけり、此病は、火の辺、水の辺、人の多かる中にして発る、心うき病也、俗はくつちと雲へり雲々とあるくつちも、近くかよひてきこゆ、蛁蟟おくつ〳〵ぼうし〈蜻蛉日記〉などいふも、其鳴始るおり、くつくつとくつめかして声お立ればなるべし、