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経済録
五/食貨
凡国に仕官する者は、田禄お不賜賤者迄も、皆米俸お給はるべき也、当時国家に直参する者は、卒徒の類迄皆米俸也、徒は中間小人の類也、諸侯の国には米俸、金俸ともあり、或は金俸無もあり、新国には金俸多米俸少し、諸侯の国にて金俸出すは甚不便利成こと也、子細は大小とも、諸侯其国より収納する物は米也、米価貴ければ、米お売て金銀取こと多し、米価賤ければ、金銀お取こと少し、諸侯の人お養所お計るに、給人は少く、無足は多し、米は本土地より出る者にて、水旱の災なければ、邑入する処増減なく、毎年同然也、給人は米お取者なれば、給人に出する米も増減なく、毎年同然也、隻無足人に給する処金俸なるは、米価の高下に因て、米の出る所増減有、元禄以来享保六年迄の如く、米価貴き時は、金方の為に米お出すこと少く、上に利あれども、壬寅以来、米の価甚賤くなるは、金俸の為に米お出すこと前の一倍に過ぐ、又近来大小の諸侯皆貧窮して、国用不足、故に給人の禄お減じ、或は死亡有闕おも補はず、或罪無に永の暇お玉ふ類頗多し、三十年前の時に比すれば、諸侯の人蓄ふ処給人以上は人にて省き、給人の為に米お出ること、既に三分の一お減と見ゆ、大国の古き諸侯はさもあらず、新国の小諸侯は比々として皆然也、是にては国用も足るべきに、一年は一年よりも困窮するは何の故ぞや、所詮は元禄以来奢侈の余風と雲ながら、金俸の者多き故也、給人以上は上に雲如く、禄にて減じ、人にて省けども、無足人はさのみ人にても省き難し、歳ほうも定れる給分にて、一列に給する物なれば、僅なる内お借上べき様もなく、昔も今もさのみ易れることなし、今の時に至て、金俸の害見へたり、
凡士人は不耕して君の養お受る者なれば、卒徒奴隷の賤者迄も米ほうお給すべきこと、道理顕然也、工商の輩は禄無者なれば、奴婢お蓄ふに、金銀お給ふべきこと勿論也、議侯卿大夫は金俸お以、人お蓄ふこと有べからざること也、若金俸に改めんとならば、近年の米価の最貴最賤お考へ、廿年程の内にて、其中価お取りて米俸の定額とすべし、無足人に悉米俸お給すれば、凡諸侯の人お養ふ所毎歳幾許の米お用ると雲こと定りて増減なし、もし凶年に遇て年穀登らず、国の収納常の年より少きこと有ば、其程に随て其年の禄俸お減ずべし、既に米俸お定まる上は、凶年に其俸お減ぜらるヽお誰か怨んや、凡そ士大夫の田禄有者より以上、諸侯天子迄、大地より出る者お以て禄とす、