[p.0006]
古事記伝

味物は多米都母能と訓べし、中巻明宮段の末に、種々之珍味とあるも、如此よむべし、其故は、貞観儀式大嘗祭儀に、弁大夫入自儀鸞門、就版跪奏両国所献多米都物色目、〈江次第にもかくあり、両国は、悠紀主基両国お雲〉と有て、其詞に、御酒倉代缶物、多米都物雑菓子飯などの色目見え、又大多米津酒、大多米酒、波多米御酒、多毎米、大多米院と見え、延喜式にも、多明米、多明酒屋、多明料理屋などゝ見えたればなり、〈但如此く大嘗祭の所にのみ多く出て、他には一〈つ〉も見えねば、彼祭に供神物に限れる名目かとも聞ゆれど、さに非ず、〉古に凡て美味飲食お雲る名なり、〈凡て上代の事は、物名も何も神事にのこれる例なれば、此名目もたま〳〵大嘗にのみのこれるなり、〉姓氏録多米連条に、成務天皇御世仕奉炊職、賜多米連也、又多米宿禰条に、成務天皇御世、仕奉大炊寮、御飯香美、特賜嘉名、とあるお以て知るべし、〈供神物に限らざること、此にて明けし、書紀の甜酒も、本の訓は多米邪祁なりけむお、後人のさかしらに、字音と心得て、多武とはよみなしつらむ、〉