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菜根百事譚

往昔大猶院様〈○徳川家光〉御代、御咄の衆とて毎日登城して御譚話等申上られし衆中、毛利甲斐守秀元、丹羽五郎左衛門長重、蜂須賀蓬庵、林道春等なり、是等の衆中代る〳〵登城して、夫々の館より弁当参りける迚、萩の間にて寄合是お食したまふ、珍敷菜抔あれば、互に取かはして賞し給ひしとかや、毛利侯の弁当に鮭の有ければ、是は珍敷とて皆賞味せられしと也、阿部対州は焼飯お紙に包て持参あり、御昼食に召上られし其包紙の皺おのばし、其紙に付し飯お拾ひて是お給られ、其跡お鼻おかみなどせられしお見る者有しとなり、