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閑田耕筆

今世造作おせる時、諸職人に三時の食物の外に、労お慰むるために、酒餅の類お与ふるお、けんずいといふ、其字も義もしらず、唯ならはしにて、いふものも聞ものも、此事と心得るなり、然るに此頃、藤叔蔵蔵せる古文書の零紙お見るに、硯水の字お用ゆ、 天正十九年六月 櫓造作入目注文と題せる数条の内 三十文 粽 硯水一日分 同おか 引の内 十六文 酒 硯水硯水と書る子細は未聞、もし硯の乾きたるに水おうつすがごとく、疲たるものに酒菓お与へて是お慰め用おなす義にや、されど是は推量の設なり、橘洲は間食(けんずい)かといへり、