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嬉遊笑覧
十上飲食
点心は野客叢書に、漫録謂、世俗例以早晨小食為点心、自唐已有此語、鄭修為江淮留後、夫人曰、爾且点心、或謂小食、亦罕知出処、昭明太子伝曰、京師穀貴、改常饌為小食、小食之名本此といへり、空心にまつちとばかり物くふお点心といふ、今俗に虫おさへといふ類なり、こゝには飯後にくふ物おいへり、是も食後小食といへるに似たれども、食前にもあれ食後にもあれ、やうやう空心なる程にくふ食なるお、数多の料理喰て間もなく、又食はむ物おいふは、点心の本義にはあらじ、又仏事法会の終日の勤行に気お屈する故、種々の物おこしらへ備るおもいへり、茶食とは名〈は〉かはれども、饅頭などはいづれにも用べし、此にて点心に用るは、大かた羹の類、麺の類に菜お添て食ひ、湯お飲ことなり、尺素往来にも、点心者〈○中略〉とあり、禅宗行はれて、是等の食物の法も伝へたるなるべし、但しもとは魚獣の肉お用ひしお、僧家には是お除きて製法おかへ、又こゝの人の口にかなふやうになし、又は其物の形色の似たるによりて、名ある物も有べし、後には名のみ同くて、物のいたくかはれるも有とみゆ、今の羊羹など是なり、