[p.0052][p.0053]
続古事談
一王道后宮
殿上の一種物は、つ子の事なれども、久しくたえたるに、崇徳院のすえつかた、頭中将公能朝臣は、絶たるおつぎ廃たるお興して、神無月のつごもり比に、殿上の一種物ありけり、さるべき受領なかりけるにや、くらづかさに仰て、殿上に物すへさせて、小庭にうちいたおしきて火おおこす、人々酒肴おぐして参て、殿上につきぬ、頭中将の一種物は、はまぐりおこに入て、うすやうおたてヽ、紅葉おむすびてかざしたり、はまぐりの中にたき物お入たりけり、滝口これおとりて殿上口まですヽむ、主殿司つたへとりて大盤におく、頭中将とりて人々にくばられけり、人々とりてけうじあへり、こと人々多は雉おいだせり、主殿司とりてたてじとみによせたつ、信濃守親隆大鯉おいだせり、庖丁の座におきて、御厨子所の預久長お召てとかせんとするに、その事にたへずとてきらず、御鷹飼の府生敦忠鳥おかたにかけてまいれり、小庭に召て庖丁せさす、一二献蔵人季時信範すヽむ、少将資賢たけのはにおく露のいろといふ今様おうたふ、蔵人弁朝隆三献のかはらけとる、又頭中将のすヽめにて朗詠おいだす、佳辰令月の句なり、頭中将朝隆がひもおとり、人々みなかたぬぐ色々の衣おきたり、用意あるなるべし、頭中将朗詠、雖三百盃莫辞の句なり、やう〳〵酔にのぞみて、資賢白うすやうの句おはやす、主殿司あこ丸ことにたへたるによりて、くつぬぎにめしてつけしむ、人々乱舞の後、みこえいだして座おたちて、御殿のひろひさしにてなだいめんはてヽ、宮の御方に参て、朗詠雑芸数反の後まかりいでけり、殿上にて人人連歌ありけり、