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今川大双紙

食物之式法の事一客人のしやうばん仕候へと仰あらば、座敷にて肴のすわりてくふ時は、すひものなどの汁おすふ事あるべからず、二はし三箸くふて後汁おすふべし、一人前にて飯くふ様之事、人より後にくひ初め、箸おば人よりさきに置也、ひや汁おうくる時は、箸持たる手にて、左のすわうの袖おかい取て請べし、汁のさいしん引人の前に来る時、先すふて出す事ひけふなり、又何とうまき二汁ひや汁也共、かけてくふべからず、大汁請べし、もしひや汁などはくるしからず、又汁の中なる魚鳥の骨お折敷のすみへ取出す事、ひけふ第一也、一こは飯などくふ様、縦箸すわりたり共、箸にてくふべからず、箸にてすくひて左の手の上に移して手にてくふべし、さりながら汁候はゞ、箸にてくふべし、一鷹の鳥喰様、努々箸にて狭喰べからず、手にて喰べし、若又汁に也候はゞ、たゞはさみ手にて一箸くふべし、其後はすひたるべし、〈○中略〉一しきの御飯などまいる事、すえの御飯おきこしめす也、それも主人の右のかたにちかき物お参らする也といへり、これは御手むきなる故と雲々、御こづけおすえに参らせ置も、御手がけのため也、〈○中略〉一しきの御飯之事、是はむねとの大じんの御もてなしと雲事有、其時すべき事なり、それお隻の祝言之時、りやく儀に少もる也、二本立三本立といふも、飯お二様に参らするお雲也、一番に本飯也、是はくろ物として、こはき飯お盛て、紙おたゝみて帯にする也、其帯おば片むすびにして、主人の御前の方お結めおする也、それに御具足お十二盛也、次には二本立、是もこはき飯お常のごとくに盛て御具足おば色々に盛也、此外に御こづけとて、かきわけて其上に汁おかけて参らする也、御飯には、三本ながら御しるのおいぜんもあれども、汁に付てまいるには、こづけの御めしに何れの汁にても、きこしめし度おとりてきこしめすべし、三本立は、姫の飯に計御手おかくる也、こは御物くろ御物と雲は、はうおば隻まいらせ置までの事也、今時分はかやうの御物おきこしめすやう、しりたる人すくなきゆへか、ひめの御物といふは、常の飯の事也、何様にも飯よりの方にもりたる具足お、飯の上より箸おこしてはさみて喰べからず、右の方なる具足と前のぐそくおまいるべき也、こづけの上にかけて参らする御汁は、ひしほいり等也、さてはたゝみの汁也、たたみの汁とは、色々のうちな等也〈○中略〉一物おくひて箸おば折敷に置て酒おものむべし、汁碗の上に箸お置事、努々有べからず、右に折敷に置べし、〈○中略〉一人前にてさい喰事、さいおば山海野里と如斯次第おして喰也、但時の賞玩お次第して先喰べし、〈○中略〉一飯おくふやう、先左お一箸、右お一箸、向お一箸、三箸お一口に入て喰也、是は門出に喰也、我が所にて向左右と喰也、一肴のすひ物おば、汁お吸てさてみおばはさみて喰也、