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宗五大草紙

大酒の時の事〈同殿中一献の事〉一肴お人の給候事、貴人の給候おば、左の手お上、右の手お下に重て、諸手にて我身おちとしづめて、手のくぼに受て、深く戴きてくふべし、懐中し候お賞玩と申人候へ共、それはわろしと、金仙寺〈○伊勢貞宗〉の給ひ候し、大なる物などはくひきりて、残おふところへ入候、又等輩の人の給候おば、かた手にて手のひらに請て戴てくふべし、大なる物のしかもぬれたるなどは、くひきりて残お何となくうしろに可置、片手にてつまみて取候事は尾籠なり、但我より下ざまの人なれば苦しからず、つまみて取ほどの人なれば苦しからず、つまみてとるほどの人の給候共いたゞくべし、但戴きやうに浅深あるべきのよし、金仙寺は宣ひし、〈○中略〉 人の相伴する事一人の相伴の事、貴人の前にて、めし又何にても相伴あらば、物のすはるまではひざお立て可有、膳すはり候はゞ、ひざおくむべし、但座敷せばく候て、貴人とひざぐみのやうならば、ひざお立てもくふべし、時宜によるべし、飯又肴取おろして畳におく不可然、先箸お取ながら、飯ならば汁おかけ湯おのみ、箸おおくまで、貴人お見合、貴人より先にてあるべからず、箸お取おく事も同前、〈○中略〉一人前にて飯くひ候やう、さま〴〵申候由候へ共、前に申ごとく、貴人お見合てくひ候べし、故実と申は、若人など前さらのさんせうおくひ、又焼物などのむしりにくきおむしりかね、手遠なる汁菜お取候とて、物おこぼしなど候事見にくゝ候、隻手便なる物おくふべし、又にしの汁お吸、このわたおすゝりなどし候事、分別あるべし、年寄たる人は、雁のかはいり、くゞい、くじらなどの珍物の引物などに候おば取て、大汁の上に置てもくひたる能候、若人は不可然候、武家にては必飯わんに汁おかけ候、飯おば本膳又二膳にても候へ、折敷へ分候べし、こわんに分候事なく候、出家は必ひやしるわんにつけて御参候、出家も在家も内々にては、何としても不苦候、一さいしんおうけ候事、飯、点心にても候へ、配膳の人お賞玩し候へば、かたひざお立請取候て、其膝おくみ候、常にひざおくみながら請候、飯などのさいしんは、さのみしげくは出候はず候、湯づけは少しげく出候、又さいしん鉢お座敷におく事はもとはなく候、まいらせ候てかげへ取候て又なおし候て出候、貴人の御前へは別に参候、当時さいしん鉢お座敷におかれ候故、勢州へ不審致候へば、其事にて候、当時如此候との給ひ候し、