[p.0063][p.0064]
礼容筆粋

飯喰やうの事かよひ膳おこと〴〵くすへ渡し、よき時分に相伴人上座にむかい手おつき、卒度御箸おと申べし、其時上客椀のふたお御取あるべし、其時座中一度に喰初る也、其次第は先右の手にてはしお取なおし、飯椀のふたお取左にわたし、又右にて汁わんのふたお取、左に持たる飯椀のふたにかさねて左の脇に置、右にて飯お取あげ、左にわたし、少宛二はし喰、又右にて汁椀お取あげ左にわたし、汁ばかりお一口すひ、右に渡し下に置、又右にてめし椀お取あげ、二はし喰下に置、汁椀お取あげ汁お吸、躬おくい下に置、已上二度也、扠三度めからは、左にてめしわんお取上、二はし計くい、汁おすい、本膳のさいおくふべし、此後からはめしお喰、二之汁おくひ、二の膳の菜おくい、又めしおくい、本膳の汁さいおくい、又めしお喰、三之膳とうつる也、向詰も又かくのごとく也、左に在菜お左にて取あげ、右にある菜お、箸お取直し右にて取、左にうつし、喰候而右にうつし下に置也、本膳のものお取上て喰べからず候、膳の上に少にてもくいこぼし汁などおくいちらす事、至極の不仕付なり、汁にひたしたる菜ならば、はさみあげて汁わんの上通りにてくふべし、くい終る時も、くい初たる菜にておさむべし、始終扇おばぬき脇に置、脇指おぬかずして有べし、〈○中略〉わんお取あげ喰候時、少もうつぶかず、左の臂おやすらかにして右のひぢおはるべし、ひぢおはらざる時は、箸斜に成て、長く口中に入、多くよごれてびろう也、扠はしお取候も、貴人の御前にて長く取べからず候、膳半に鼻紙にて口おぬぐふ時などは、はしお飯椀と汁椀との間にすじかへて置、湯おのみ仕廻候時は、本おとゝのへ、本式のごとく置也、総而の膳部お、むさくくいよごさぬやうにすべし、諸事につけてらうぜきなるべからず候、くふべきものは皆くい、くふまじきとおもふものは、ふたお取たるぶんにてくはぬもよし、作然半喰さしたりとも、跡に気おつけ見苦しからざるやうに嗜むべし、小人などは別而此心得かんようなり、