[p.0065]
礼容筆粋

食事之時病之事ものおくふ時、平生お嗜候事第一也、物毎かくのごとくなれども、一しほ食事は一日に二三度是非にかげざる物なれば、常々に礼法の趣お聞て心お用る時は、恥辱おとらぬもの也、第一貴人の御前にて大口にむざと喰まじき也、口一はいほうばりたる時、不計人言お申かけたる時見苦し、扠上座おもうかゞはず、前後おもかへりみず、情お食味にうつしてくふお、大喰とて大きにいましめ候なり、つゝしむべし、菜お下に置ながら箸お長く取のべ、あへ物お一口喰、煮ものお一口くふおうつり箸(○○○○)とていましめたり、たとへ取上ては喰とも、菜はさい計あれこれおくふお菜ごし(○○○)とてきらふ事也、焼物おくはんか、又さし身おくわんかと、うろたへたる体、さて〳〵見苦し、唯飲食の時は、心さはがしかるまじく候、加様に手のなまるおなまりばし(○○○○○)とて嫌ふ也、食にても汁にても、通ひより請取、膳におかずして直にくふおうけぐひ(○○○○)といへり、是又嫌ひ候也、膳のむかふの物お、はしおのばしてはさむお膳ごし(○○○)とて嫌ふ也、此外一々にあげがたし、