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嬉遊笑覧
十上飲食
式作法の外に物くふに心がくべき事あり、雖知苦庵道三養生物語に、四条縄手にて正行が敵に後ろお射させながら、しづかに竹葉(べんたう)おつかふと雲こと、天晴なる勇将とおもへり、梅窻曰、そういやるで思ひ出した、木村が上方勢おおつ立たいきほひより、討死の時、大手の前にて、敵の方へ尻お向け、床几に腰おかけて、手の者五六人まんまるにして、大仏餅お手に手に持、しづかに食ていた、その体ことの外見事にあつた、雨のふるやうな矢玉の中でのことじや雲々、不断しづかに物お食ならはねば、いそがしき時落ついて食れぬものじや、食物が脾胃へおさまらず、首のまはりにある物じやといへり、こは英雄の振舞なれど、併しながら又ならひにもよるなるべし、 ○食法の事は、尚ほ礼式部饗応篇に在り、宜しく参看すべし、