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嬉遊笑覧
十上飲食
精進物お肉菜にならひて作るもの、可笑記〈三〉に、さる御寺へ参る、色々の御料理なるに、きじやきのたぬき汁のと、どしめく、こはいかなることにやと、心空にて見れば、さもなき精進物の御菜なり、寺がたの料理だて心得有べし、料理物語に、きじやきはとうふおちいさくきり、塩おつけうちくらべて焼なり、此製古きことゝ見えて、宗鑑が犬筑波集、しやうじの汁にまじるふしやうじ、雉やきおよく〳〵見れば豆腐にて、淀河に此句に付て不審たつほど、まづ白なしほ注に、きじ焼はやき塩付る故なり、〈これおおもへば、まことの雉やきも塩やきなるべし、〉又たぬき汁は、獣の歌合、五番左、狐つかの穴えもん、右たぬき汁のこんにやくと有り、今も蒟蒻お汁に煮てしか呼なり、篗絨輪寮の窻つまは焦さじ扇なり、結句、狸汁にばけるこんにやく、芙蓉文集、桃鏡と雲もの、こんにやくの文に、或はたぬき汁と化して舌つゞみお打する、一際風流のさたなり、又鴫焼のことも雑考にいへり、精進のは庖丁聞書に、鴫壺といふは、生茄子のうへに、枝にて鴫の頭の形つくりて置なり、柚味噌にも用とあるは、猶まことの鴫お用ひたるさま残れり、其後は名のみにてもとの形なし、料理物語に、鴫やき、茄子おゆで、よきころにきり、串にさし、山椒みそ付てやくなり、慶長このかた今の形となれりとみゆ、完永発句帳、徳元が句に、鴫やきなすびなれど、もとより肴、佐夜中山集、鴫やきはかならず秋の茄子哉、