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橘庵漫筆
二編二
食卓とは食物お乗する机の名なり、食卓台といへるは、清土(から)の洒落お真似る人には似合はぬ片言なり、扠食卓(しゆつぽく)或は卓子(しゆつぽく)などゝいひて、食物の名と思えるは弥拙しと或人は雲へれど、これも入ほがとおぼゆ、夫本朝の風に御膳上り申と饗膳配膳などゝ雲、すべて膳お称して俗間食物に通ず、故食卓召されと計り雲ても、御膳召上られひと雲様成義と同じ、扠食卓畿内に流布すること、京師祇園の下河原に佐野屋嘉兵衛と雲ふもの、享保年中に長崎より上京して、初て大碗十二の食卓お料理し弘めける、これ京師浪花にての食卓料理店の初とかや、嘉兵衛娘はんといえる老婆、近頃まで存命せり、則今の佐野屋の祖なり、大坂にて彼是食卓料理数多ひろめたれども、野堂町の貴得斎ほど久敷つゞきたるはなし、