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八仙卓燕式記
清人呉成充船中饗金右衛門式 叙席(しゆいづいつ)烟筒に煙草おつぎて出す、管の長さ凡四尺許、管の長きおちそうとす、芬盤(ふうんぼわん)、火盆(ほおべえん)、烟袋(えんだい)の類お出さず、主人火刀お以て火おうち黄簽にて喫す、 献茶(へんづあヽ)茶盤(づあヽぼわん)に鐘子(ちよんつう)お載せ、茶瓶おそへ持出る、客二人の時は、鐘子二つ前に置、茶おつぐ、客に先後の差別なし、差葉密(ら○うえつみいつ) 長崎にてきんまと雲ものなり、此お食すれば歯お固むるよし、蜜漬にしたるものなれども、味い澀きものなり、 中食(しよんじつ)柬麪(けんめん) 此方の温飩の如きものなり、小麦の粉お鶏蛋汁(きいだんぢつ)にてのばし、長さ二寸ほどに剪りて、猪(ぶた)の細腸(すいちやん)、木耳(もるう)おつまにし、淡醤油にて享て出す、 此間に賓主の外同船の唐山人会合して、琴棊書画(ぎんぎいすうつあヽ)の戯おなす、唐山にて消遥(すや○うや○う)と雲、已に終て座おなすお安席と雲、 安席(あんづいつ)客座に藤席(てんじ)お鋪き、其上に赤氈(ちつつえん&もうせん)お敷き、又重て華紋氈(はあヽうえんつえん)お布く、〈○中略〉 調和でや〓ほう芥酢(きやいつおヽ) 此方のからしず 白酢(べつつおヽ) 此方のしらす 醤油(つやんゆう) 此方のしやうゆうに似たり酸酒(さんつゆう) 此方の煮酒の味のものなり 右四品携出す 小菜(すやうつあい)八品歌六鱶(こおろすやん) 広南より出るこうむきと雲魚の〓鮧(つおいてい&しおから)なり、 章魚鱶(ちやんいゆいすやん) 広東より出る手なが章魚お、紅麹にて漬たる〓鮧なり、長崎へ来る、其製本草にも出づ、 蝦米(ひやあみい) 東埔塞(とんぷうつあい)より出る川蝦なり、蒸て乾たるものなり、水に漬醤油おかけ出す、 海粉(はいふえん) 南国の海中より出、浮亀(へうくい)の子なるよし、酢に漬、生薑お加へ出す、 橄欖(かんらん) 福州より産す、木の実なり、此お生にて醤油に漬出す、此実塩漬又は生にても長崎へ多来る、橄欖の樹、長崎崇福寺内竹林院にあり、年々実お生ず、他邦に植れども生長しがたし、 鹿角菜(ろきよつあい)〈一名海鹿草〉 夏門(まあめん)の海中より出る藻の根なり、酢醤油に漬出す、和名つのまたのり、 菜脯(つあいふう) 冬月蘿蔔お四つわりにして、一夜塩に漬、翌日取出し日に干し、筵おかけすり合せよくもみて、又桶に入、手にて塩おうち、又翌日出し前のごとくにし、四五日も同様にして、壺の底に藁おしき、其上へ蘿蔔おならべ置き、又藁お置、幾重も同様にして、壺に蓋おなして口お封じ、日お経て取出し食ふ、此方の香の物の如に用、 醤瓜(つやんくわあ) 此方のなら漬瓜なり、洗ひてつまみきり出す、右銀の小皿に盛携出、八仙卓の上に置、 中菜(ちよんつあい)十二品鹹鴨蛋(えんまつだん) あひるの蛋(たまご)お、赤土一升に塩五合入漬置、日お経て取出し、湯煮して殻共に三つわりにして出す、 蚱児(つえるう)〈一名海蜥〉 此方の唐海月なり、水に漬塩おだし、割み醤油に漬て用、 笋糟(すいんつあう) 竹の子の糟漬なり、切洗ひて油にて熬(あげ)出す、調和宜に随、 帯魚糟(たいいヽつあう) 此方のたちうおの糟漬なり、右同様にして出す、調和宜に随、 〓魚糟(たいいヽつあう) 広南より出、和名しぐちと雲魚の糟漬なり、切洗ひ て蒸て出す、調和宜に従、 鯿魚干(べんいヽかん) 暹羅より出るにべ魚の干たるものなり、湯煮してむしり出す、調和宜に従、 〓魚(ぢヴいヽ) 此方のするめなり、炙りて出す、 蚶児(かんるう)〈一名小蚶〉 此方に雲さるぼうなり、水お用ひず煮れば血にて熟す、醤油おかけ用、唐山にて泥中に飼おき食品に充るなり、沙蟶干(しやあしんかん) 此方のまて貝なり、湯煮して油にてあげ出す、調和宜に従、 紫菜(つうつあい) 此方にて雲あま海苔なり、猪の油にてあげ塩おふりかけ出す、 蝦蛄生(ひやあくうすえん) 此方西国にてしやつくはと雲蝦な り、首尾お去り塩水に漬、しばらくして取出し用、大坂にてしやこと雲、 紅菜生(おんつあいすえん) 此方にて雲とさかのりなり、生蘿蔔とまぜて酢醤油おかけ出す、 右硝子(すやうつう)の皿子に入携出、八仙卓の上に置、 大菜(たあヽつあい)八品方肉(はんじよ)〈和名角煮〉 猪肉四角に切り、水にてとくるほど享て醤油お加へ、莞荽と雲ものお上に置、〓香の粉おふりかけ出す、莞荽は此方の芹に似たるものなり、本草の胡荽なるべし、近年種お伝へ、此方に多あり、こへんとろと雲、 猪頭(ちゆいてヴ) 猪の頭お水にてとくるほど享て、切らず其まヽ出す、各むしり皿子に受て調和して食ふ、 大臓 猪の大わたお細に割み、木耳お加へ、醤油にて煮出す、 猪宮(ちゆいこん) 猪ふくろわたお細に割み、春菜と雲て此方の土筆お加へ、淡醤油にて煮出す、 腰子(やうつう) 猪の腰に大きなる豆の如くなる赤色の物あり、此お細に割み、笋干と雲ものお加へ、淡醤油にて煮出す、 猪血(いゆいひえ) 猪の血お器に入、塩お少し入おけば、豆腐の如くに凝るなり、それお煮て薄くへぎ、風吹餅と雲広南より出る薄きせんべいおいれ、淡漿にて煮出す、 猪醤(ちゆいつやん) 猪の肉お切湯煮して、味噌お磨(す)らずに葱青お細に割み拌て出す、 猪蹄(ちゆいてい) 猪の四肢お足くびより切り、蹄お水煮して主人携出、客是お受たがいに礼おはりて、手につまみ芥酢或は漿にて食す、 右猪一色の料理なり、頭より足まで用ゆること大饗応なり、大菜の饗客より全供と雲て、主人へ厚く礼おのぶるなり、初より大菜お出すまで主人は食事せず、賓へ右の小菜中菜大菜ともに美なるところお皿子に盛薦むるなり、主人へ客より懇にあひさつして酒お勧め、請下著(ちんひやあつう)と雲て、客箸おとりて主人へ薦むるなり、此時固辞と雲て、主人固く辞退するなり、客の雲、莫拘(もつきゆい)と雲て、ひたすら勧むるにより、主人箸おとり食事いたす法なり、是より酒お各杯にて飲むなり、 大碗頭(たあわんでう)八品白煮雞児(べづうきいるう) 鶏の毛おひき腸おぬき、清水にて全体に享出す、各むしり皿子に受調和して食す、 白煮鴨児(やつるう) あひるお右同様にして出す 白煮鮫〓(きやうれつ) 此方の鯛の鱗おふかず腸おぬき、右同様にして出す、鯛章州人鮫〓と雲、南京人は紅魚(おんいゆい)と雲、閩書に出たる棘鬣魚のよし、鮫〓紅魚と雲も方言なるべし、 羊児(やんるう) やぎと雲獣なり、全体にて熱湯かけ、庖丁にて逆に毛おこそげ落し、腸お除き清水にて煮なり、煮へあがりたるとき醤油塩少加るなり、客へ出す時焼酎お多く入引出、其まヽにて出す、各調和して食す、 鹿筋(ろきん) 台湾より出る鹿の脚の筋お干たるものなり、一寸許に切水に漬やわらげ、鶏糸と雲ものと同く和し、漿にて味おつけ出す、各調和して食す、鶏糸は鶏お湯煮して、糸の如く細に箸にてさきたるものなり、 海参(はいすえん) 此方のいりこなり、大泥(たに)より出る犀皮(すえヽびい)と雲もの干たるお水に漬し、此二品同く淡漿にて味お付出す、 鮑魚ぱういゆい 鮑お切て鴨糸お入、淡漿にて煮て出す、 銀魚(いんいゆい) しろうおのことなり、沙魚(すあヽいゆい)魚金と雲ふ、かのひれの金色のところお撰み、あま海苔お加へ、水にて煮、酢お加へ塩少し入れて出す、 右此方に雲どんぶり鉢に入れ出す、各箸お入食す、 喫飲(きわん)常の飯なり、茶碗に入、人数ほど各に出す、飯の湯出さず、茶に漬し食す、 収器(しうきい)初より席に出したる器物お遺さず、取納ることなり、 三事筒(さんずうとん)三品竹の筒に納たる、左にいふところの三品お、主人携出て客に薦む、 耳把子(るうぱあつう)〈○中略〉 歯托(つうと)〈○中略〉 歯刷(つうすえつ)〈○中略〉 修痒(すゆうやん)此方の按摩導引なり、主人あいさつありて、客へ望むやうにすることなり、 音楽(いんや)糸竹、其余数種鳴器お出し歌吹す、 冲茶(ちよんつあヽ)大壮炉(だあヽちやんろう)と雲る風炉に急焼(きつす〓う)おかけて湯お沸す、宜興鑵〈宜興と雲所の土にて焼たる器なり〉と雲茶だしに茶お入、其上へ湯おさし出す、猶佳茶お用ゆ、小き鐘子へつぎ出す、此方のだし茶なり、〈○中略〉 密餞茶料(みつえんつあヽりやう)二十四品小卓(すや○うちよつ)の広さ二尺四方許なるに小皿子二十四お置て出す、此方の茶うけなり、〈○中略〉 銀爵献還(いんちやつへんわん)此方の酒宴なり、〈○中略〉銀爵にて主人酒お一盃受客へさす、是お献と雲、客飲了て主人へもどす、是お還と雲、肴おはさむお過菜と雲、夫より乱宴になる、是お戯酎(ひいちう)と雲、宴の中に数々戯おなす、〈○中略〉 諸戯既に終りたるころ、客主人へ後段の食お乞なり、是お尋後(じんへゆう)と雲、 賀尾(ほううい)薏苡仁或は西国米お砂糖にて煮て、石碗に盛出す、水にて粥の如くにして、砂糖蜜かけてよし、此方律院点心などにも用、此にて総終なり、