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料理通大全
四編
会席普茶料理略式普茶といふは、唐風の調味にて、精進の卓子なり、長崎の禅寺、宇治の黄檗などにて、客お迎るには、必ず普茶料理にて饗応す事常例なり、近来上方にて専ら流行して、会席に略してする様になれり、客四人お一脚と唱へて、客七人なれば卓子台お二脚とし、主人も其中に加りて供に相伴する事なり、原来酒お多く進る料にあらざれば、下戸口にあふ調味ながら、大菜小菜の中に上戸の意に協ふ品お調ふべき事なり、まづ煎茶お出して、座附吸物といふ処から、直に卓子台お持出すなり、小菜八品、大菜十二品にて、皆長の数なり、次第は図に出せり、引合せて見給ふべし、卓子料理の内にも、当時の清風と、おらんだ流とて、大に異なれども、猶それは長崎に於て、通辞衆の宅などにて催す事なれば、白煮の猪(ぶた)の蹄、丸煮の雞、焼羊の属、日本にて調味しがたき物は、その時々魚鳥に更て庖丁す、世に普茶卓子などいへば、諸事費多く驕奢の沙汰に聞ゆれども左にあらず、その仕様に依て、有合の物到来の品にても済事なり、唯器物の次第、席上に持出して物々敷盛並る故に、目新しく一入の興になりて、客の歓ぶものなれば、其略式に効ひて試み給ふべきなり、