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料理通大全
四編
普茶卓子略式心得一卓子料理は、清風(からふう)の茶の会席に斉しく、貴賤のへだてなく、懇意お結び交りお厚くするの一なり、器の中へ与に箸お入て食する物なれど、正客より順に賞玩すべし、一こつぷ酒鐘(さかづき)は、銘々ひかへあれど、酒たけなはにおよびて、各互ひに盃おとりかへて飲事なり、一台上に汁おこぼす事なかれ、若あやまちてこぼす時は拭ひとるべし、箸に挟みて喰物は、鞨児(こざら)にとりて食べし、湯匙(ちりれんげ)は左の手に持べし、骨ある物は皿子に残し置、直に渣斗(ほねはき)に入れるなり、一席中都て雅言お用ゆ、小皿お鞨児(てうじ)とよび、皿子(べいし)といふ、盃お爵といひ、又単提といひ、盃猪口お十景套盃(じつきんぱい)、また石(いし)ともいふ、吸物椀お蓋碗といひ、銚子お酎瓶(ちうびん)といひ、散蓮華(ちりれんげ)お湯匙(たんすう)といふ、土瓶お茶瓶(さびん)といひ、箸お牙著(げちよ)といふ、箸紙に差て細き朱唐紙にてまき、福禄寿などの目出度文字おかく、一大菜小菜とて、別に器のかはる事なし、常々の皿井(どんぶり)大平台重鍋なども遣ふべし、隻名目のからめきたるのみにて、異様の調味すべからず、客の上戸下戸お窺ひ、腹おうがち、臨機応変見はからひに有べし、