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四条家法式
一十二冷汁 松島や小島いかにと人問ば、何とこたえん言の葉もなし、 露の身お嵐の山に置ながら世に有顔とけむり立かな 一正月こ畳、鮮海鼠おいかにも細造て、酒おかへらかして、鮮海鼠お洗て、下地の汁へかきお入て、一泡煮て採あげて、たヽき参時、鮮海鼠お一度に入て山葵がち和べし、若山葵なくばせうが、又かきなくば蛤成とも、 二月梅花冷汁、煎海鼠おいかにも薄く小口切に切て、酒にて一泡煮て採上て、下地の汁へ入て、亦栗お小口切に切りて入て花の心へ、可有山の芋とろヽお少入て、あまりねばらぬ様に可有、甘海苔針薑入て、 三月はえ畳はえお下地の汁に入て、一泡煮て其はえお採上げ、べちのはえお炙焼に焼て能摺蒸て、下地の汁おかへらかして入て、少し増て甘海苔お小に焼て入て、からみには山葵、若なくば芥子成とも入て吉、 四月卯花冷汁、いかお下地の汁にて一泡煮て採上、其いかお薄く造りて、甘海苔おも小にして入、山の芋おとろヽにして入べし、あまりねばらぬ様に可有、 五月鮎畳、鮎お下地の汁にて一泡煮て採上げ、能越て和べし、右のはへ畳のごとし、 六月瓜冷汁、海老の皮おむきて、下地の汁にて一泡煮て採上、能摺て和べし、亦瓜お割みて入べし、辛みはたで也、 七月ほや冷汁、ほやの皮お去、腸お能摺て入、ほやおば薄く細くいかにも小に造て、下地の汁へ腸と一度に入べし、うけみにはかた海苔お入て山葵勝に和べし、若山葵なくば芥子成とも、 八月鯉見、ふらいのすたれ骨お下地の汁にて一泡煮、やがて採上て其骨はのけて、鯉お蒲穂の様にして、いかにも薄ひろげて、能々色お取て、下地の汁おかへらかして入る也、うけ身には梨の皮おむきて、流し葉に切て入、甘海苔おも少入て、芥子お辛みに可入、 九月鯛とろヽ、鯛お蒲穂の身の様にして、酒おかへらかして色お取て、下地の汁おかへらかして、鯛身お摺入てかき廻し、甘海苔お入べし、辛には山葵若なくば芥子也、 十月辛み冷汁辛螺の辛お能々あぶりて、能摺て下地の汁へ入て、亦辛螺の身おも細造て入べし、こ椒も入べし、 十一月鳥たヾみ、鳥のひつたれかつお身お、かまぼこのみの如にして、下地の汁おかへらかして、鳥の身おだしかつお身にてときて入て、少さまして山の芋おとろヽにして入て、甘海苔おも入、山葵の辛みなくば芥子、 十二月かき冷汁、かきおからなべえ入て煎て採上げ、能たヽきて下地の汁へ入てかへらかして、少さまして山芋のとろヽお入て和べし、辛は古椒也、