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嬉遊笑覧
十上飲食
三峯尖、〈○中略〉庖丁聞書に、三峯膳の羹は、五斗土器に羹三色杉盛にして出すなり、此三色は須弥の三峯に表し盛なり、四季お一季づゝ残し、過去現在未来にかたどり、其時節に色どるなりと有り、思ふにその色は、北は黄に南は青し、東白西紅に染色の山、〈此歌謡曲の歌占に、須弥山の歌と有り、日本紀通証に泉式部が歌と雲ども、出所定かならず〉といふは、須弥山の歌といへり、これお春夏秋冬に配し用、たとへば春の時ならば、これお現在とし、冬お過去とし、夏お未来とする盛かたと見えたり、料理物語に、しゆみせんといふ汁あり、菜も豆腐もいかにも細かにきりたるおいふ、みそ汁にだし加ふといへり、是も三峯にならひたる物なるべし、