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浪花雑誌街乃噂

千長、向ふの角に行灯が見えるが何だらふと〈いひながら、二人して足おはやめて其処にいたり見れば御吸物かしわじ○くわしわんさしみ御酒肴と記したる看板なれば、ふたりながらうちへ入、〉万松、吸物で一つ出してくんなせい、肴は何がありやすねへ、小女、はい〳〵そこにかきつけてござりますものは、みなできます、千長、なるほどかきつけてある、先さしみお出してくんな、おや〳〵解らぬものがある、此菓子椀といふは、菓子お椀へ盛つたのかね、小女、「へんなかほおして」、いへ〳〵めつさうな、万松、そして何(なん)だね、小女わん盛て肱り升、千長、椀盛とはあヽ何か、しるこのことかへ、小女、わからずまご〳〵していると、奥より女房と見えて、年はいの女かけいで、女房いへ〳〵くわしわんは、かまぼこ、しい茸、鯛の切身などお入れましたつゆもので肱り升、お江戸で申太平種で肱り升わいな、万松、へゝ分りやした、それおこちらでは菓子椀といひますか、女房、わらひながら、へゝさやうで肱り升、千長、何でもねいことにおほきに骨お折た、さうなら其菓子椀で飯お出しておくれ、