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信綱記
一松平伊豆守〈○信綱〉常に茶の湯にても謡舞にても、碁将棊一色も数寄好者被申事無之、毎度隙の時分は、出入の心安き衆お集、色々理屈咄おいたされ、或は公事沙汰の事お問答批判おなぐさみとして日お暮し在之候、〈○中略〉或夜出入之侍衆申出さるゝは、〈○中略〉亦問給ふは、総而人のさかやきお致候と申事は合点不参事也、あたまおやきたる事もなきにさかやきと申候、豆州被申は、夫には御返答は無之、料理に肴焼といへる料理有、是も煮て用るものなれども、せりやきと申候、是はいかんと被申候へば、皆返答なくして、御理屈にあひ候ては、文殊も成申間敷候と笑ひて過ぬ、さかやきのひらきはならざるといへども、負はいたされずと申沙汰せり、